立教大学文学部比較文芸思想コース卒業後、ハンガリーに拠点を移してダンスを始めました。その流れで、2009年の8月にセルビア・ヴォイヴォディナ州の街カニッツァにて振付家ジョセフ・ナジのワークショップに参加したとき、急遽、新作『Length of 100 Needles』のリハーサル参加、公演ツアー参加のオファーを頂きました。僕自身、自覚的にダンスを学んだ経験がなく、大学で学んだ文学、哲学の延長線上として、見よう見まねで身体を動かしていただけであり、いきなり憧れる振付家の作品に参加することになり戸惑うことはありましたが、断る理由が全くなく即決しました。なぜならジョセフ・ナジの『ヴォイツェック』をビデオテープで観て、感動したことが、このなんとも捉えがたく、蛇行した道を歩むキッカケに確実になったからです。それからは何度も、ハンガリーとセルビアの国境を越える生活が始まりました。

大学生のころ、フランス文学者であり、ドゥルーズ、アルトー、ベケットなどの翻訳者である宇野邦一教授の授業をよく聴講していました。彼の薦めで、当時、夏に山梨県北杜市白州町身体気象農場で行われていた、ダンス白州アートキャンプにボランティアとして通ってました。その場所を開拓した舞踊家田中泯さんが行う、からだと環境のワークショップのために世界中から様々な人が集まっていました。幸運なことに、僕は田中泯さんのワークショップにおいて通訳アシスタントの役割を頂き、そして舞台班として国内外から白州での野外公演のために舞踊団、芸術家の接待などの経験をさせていただきました。大学時代通った山梨県白州町での貴重な経験が、私個人ではカニッツァという小さく静かな街での物語と繋がってます。白州が山、緑、水を連想させる環境であり、カニッツァは川、泥、平原、ノスタルジックな白黒の世界を連想させる環境でした。人口1万人に満たないカニッツァはセルビアとハンガリーの国境近くにあり、紛争前はユーゴスラビアの町でありました。周囲には平原が広がり、ティサ川が静かに流れてます。

『Length of 100 Needles』はこの地域の作曲家メザイ・シラーの音楽からタイトルがとられており、セルビア・ヴォイヴォディナ自治州出身のハンガリー人、ハンガリーに住むハンガリー人、ルーマニア・トランシルヴァニア出身のハンガリー人、セルビア人、そして一人の日本人の混合チームで制作されました。 2009年の初演から、ブダペスト、デュッセルドルフ・Tanzhaus、南仏・Festival de Marseille、スロベニア・Cankarajev Dom、ベオグラードと巡回公演されました。参加者であるダンサー、音楽家の大半がユーゴスラビア紛争、国家分裂、アイデンティ ティーの崩壊に関わらざる得ない状況を経験していたこともあり、彼らと交流を重ねる中でアイデンティティー、国家、国境、そしてその先のイメージとノスタルジアという問題を深く考える機会になりました。これはタルコフスキーの映画、テオ・アンゲロプーロスの映画などにも繋がる主題だと思います。この場所でひと周り年齢が下回る異邦人の「私」 という存在を、ありのままに、無邪気に受けれてくれた仲間達のことを少しでも知りたいと思い、ハンガリー、ルーマニア、セルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、 マケドニア、アルバニアと旅をしながら写真の記録活動も行いました。このエリアのアートは現代美術史においてもまだ未整理で日本ではあまり知られてないので、将来なんらかの形で紹介する活動をしたいと思ってます。

ジョセフ・ナジとの出会いは私にとって大きな転機でありました。親日家であり、来日時は神保町に通いひたすら本を買う彼は 「能」、「禅」、「具体美術協会」、「日本映画」に対する造形が深く、彼と対話を重ねる中で日本文化について考えさせられることが多々ありました。また文学、詩、絵画、政治について話すことが多々ありました。以上の経験を2017年より進めているプロジェクト「トポス」の中で再確認してます。

web: 
 https://www.cd-cc.si/en/culture/theater-and-dance/josef-nadj-length-of-100-needles-duzina-100- igala

http://www.nathaliesternalski.com/festival/nadj_needles/index.php

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